WASP株式会社

以前、「IoT認証システムの特許について」というエントリを書いて、特許化出来そうだけどしないことについての公知化をしました。今回も同じようにエントリを書いて公知化してしまいたいと思います。

なぜこのようにするかについては、「IoT認証システムの特許について(2) 特許化しなかった理由」のエントリを参照して下さい。

背景

現在弊社では、自社開発商品として「IoT技術を応用した植物育成環境」の開発をしています。

自社製品の基板ができました(1)

自社製品の基板ができました(2) LEDの実装

自社製品の基板ができました(3) マザーボードの実装

これは、卓上で植物を育てて鑑賞することを目的としたインテリアグッズです。

従来、このような用途のものは、単純に光を当てることのみであり、中の環境を植物に向いたものにすることはあまり考えられていません。

アクアリウムとか経験した人はわかると思いますが、「植物を育成する」ということと「鑑賞に適した環境にする」ということは、実は二律背反です。

なぜなら、植物を植えた直後から鑑賞に適した状態になるまでは中の植物には育って欲しいのですが、鑑賞に適した状態になってしまった後はなるべく育たないような環境の方が好ましいのです。ですから、単に「植物を育成する」ための照明だけでは鑑賞に適した状態を維持することには向きませんし、逆であれば期待した状態になるのに時間がかかってしまいます。

本発明は、これらの問題を解決するためのものです。

課題(必要性)

生物全般に、「育成」のために適した環境と「鑑賞」のために適した環境は、必ずしも一致しません。

ここでは説明を単純化させるために「光合成で育つ独立栄養の植物(以下植物と呼びます」に限定して書きますが、他の観賞用の生物でも事情は似ています。

植物が光合成に必要な光線は660nmと450nmが主とされています。660nmは人間は「赤」と認識し、450nmは人間は「青」と認識します。単に植物を育成することが目的であれば、この2種の光線があれば良いことになります。また、これらの比率は等しくはなく、6:1〜2:1で赤が強めになります。なので、このままだと人間にとっては「赤紫色」の照明となります。それゆえ、植物の葉は緑色になります。660nm付近を吸収した残りは緑と感じるスペクトラムだからです。

こんな感じです。

当然これでは「鑑賞用」には不向きですから、育成には直接関係はありませんが緑色の照明を足し、また同様に青色の照明も強化して、RGBのバランスを取ります。さらにここに白色の照明も加えて明るさを調整します。これが一般的な「鑑賞用植物の育成ライト」となります。ホームセンターやアクアリウムショップだと、だいたいこんなスペクトラム構成のおしゃれなライトを売っています。一見単なるRGBWで作った白色光ですが、ここに「660nmの赤」が含まれているというのがポイントとなります。

ところが背景で述べたように、このスペクトラムには欠点があります。それは植物が「育ってしまう」ということです。

農業として植物を育てる場合、育つのは無条件に良いことです。植物工場用の照明技術は、実にこの研究が行われているわけです。しかし、「鑑賞用」となるとこれは必ずしも良いことではありません。

一般に観賞用に植物を育てる場合、植物が育つことを見越して、苗や種子を植え、それが育った時にバランスが取れるように考えます。ところが、それがさらに育つとバランスが崩れたり、うっとおしい程になったりします。水草系アクアリウムをやっている人にとっては、おなじみに風景です(有茎のトリミングの大変なことよ)。

また、アクアリウムの場合、植物が育ちやすいということは「コケ(苔ではありません)」も育つということです。水槽の中にコケが育ってしまうのは美観を損ねますから、なるべくそーゆーのは育って欲しくない。育ってしまった後に植物の生育を抑制することはそういった意味もあります。

そこで、環境のステータスが「育成」から「鑑賞」になった時には、むしろ植物が育たないようにする必要があります。

解決

この問題を簡単に解決するためには、植物育成の中心となる「660nmの光線」を除いてやることです。植物の好適とする光線はかなり狭いスペクトラムなので、660nmを含まない光線にしてやるだけで随分育ちが悪くなります。

単純に除いてしまうと緑青白の光線となってしまい、色味がおかしくなってしまいます。そこで、緑と青も除いてしまって白だけにします。普通の白色LEDは「青と黄色」で構成されています。最近は高演色ということで他のスペクトラムも含んでいますが、だいたい青と黄色付近が強いというスペクトラムになるのが普通です。なので、白色LEDだと植物の育ちはあまり良くありません。これは「鑑賞」状態を維持するのに向いています。

他方、安めの白色LEDは青と黄色の光線だけで構成されるため、あまり色が美しくありません。やはり自然な色を再現するためには、RGBそれぞれが必要となります。また、光線の色によっては中の植物が「映える」効果があります。植物の葉や花の色に合わせて、多少RGBのバランスを崩してやると、より一層美しくなります。赤系の水草には赤っぽい光が似合うのです。あまりあざといのは良くありませんが。

ところが、この目的では660nmの赤は使えません(使うと育ってしまう)。そこでどうするかと言えば、「640nmの赤」を使います。

一般に流通している「赤色LED」は実は「640nmの赤」です。これが我々の見慣れている赤です。植物育成に使う660nmの赤は、我々の目にとってはちょっと赤過ぎるという感じの色になります。どちらも単体で見れば「赤」ですが、並べて見ると違いがわかる程度には違います。とは言え、RGB混ぜて白色にすると、あまり違いはわからなくなります。

面白いことに、普通の赤色LEDである640nmのLEDは、660nmあたりはほとんど含んでいません。同じように植物の必要とする「赤色」にとって640nmの赤は他の色と大差ない程度には「どうでもいい光」になっています。これは他の色が同じように全く光合成に関与しないというわけではありませんが、660nmほど特異的に有効ではないということです。

そこで、

育成時には660nmを赤色として使い育成完了後は640nmを赤色として使う

ということで、二つの状態を両立させつつ、演色性を高めるということが可能となります。もちろん相手は生物ですから、全てがこの通りになるわけではありませんが、少なくとも「どんどん育つ」状態と「そんなに育たない」状態が作れる程度には違いが出ます。これは実験でも確認済みです。

補足

以前のエントリのLED基板の画像、

では、大きな8ピンのLEDがRGBWの一般照明用のLED(この画像だとD7〜D12と書かれているもの)で、小さなSMDのLEDが植物育成用660nmのLED(D1〜D6)です。

制御するソフトウェアでそれぞれの赤色の強さが調整できるようになっています。育ちに応じてこの比率をいじってやれば、育成にも鑑賞にも使える光源になるわけです。

なお、以上の話で「青」についてはあまり言及していません。「青」は「赤」ほどは成長に関与しない(でもあると嬉しい)ということと、植物の求める「青」とLEDの「青」は同じ波長なので、こういった選択性がないためです。