ハードウェアからサーバ・アプリまでワンストップで開発

前エントリのように単純な方法で「インターネットにつながるデバイス」のセキュリティーを強化するアイディアを考え、またその新規性についての調査を(弊社にとっては)結構な費用をかけて行ったのですが、特許化については断念しました。

その理由について書いておきたいと思います。

以下のことはあくまでも「概略」であり、厳密なこと詳細については、実際に何かしたい時に各人が調べるなり、弁理士に聞くなりして下さい。

特許化の意義

特許を取得することについては、いくつかの意義があります。あちこちでそれは語られていますが、弊社のような「IT系零細企業」にとっての意義を挙げると、

  1. 技術力の誇示
  2. 競合する他社への牽制
  3. 競合する他社からの牽制に対する防御

といったところではないかと思います。いずれもその理由はすぐわかると思います。投融資関係のことだと1.が重要だと聞きますが、実務的には2.3.が重要です。

今回の「IoT認証システム」を特許化しようと思った動機は3.にあります。自分達がシステムやサービスを構築する時に、他社がその技術を特許化してしまっていると我々が使うことが困難になります。そこで先行例を調査して、件のアイディアが他社の特許に抵触しないかを調べる必要がありました。そして、なければないで何らかの対策、具体的には自社による特許化が必要だと考えたわけです。

実効性のある特許

せっかく特許を取っても、実効性がなければ意味がありません。

特許の実効性となると、まず「強い」ことが求められます。「強い特許」についてはいろいろ語られていますが、日本知的財産協会資料がいい感じにまとまっています。

とは言え、「実効性」ということだと、単純に「強い」だけではなくて、いろいろなことを考えなければなりません。たとえば、

  • 現代は特許は国際的でないと意味がない
  • 侵害された時に有効に対応出来ないと意味がない
  • 独占的に権利行使出来ないと意味がない

といったことがあります。

現代は特許は国際的でないと意味がない

インターネットの時代ボーダーレスの時代となると、特許は世界中で有効でなければなりません。つまり、国際特許を取る必要があります。

かつてと比べて国際特許を取得するためのハードルは低くなりましたが、それでもコストも時間もかかります。

侵害された時に有効に対応出来ないと意味がない

せっかく特許を取っても、その権利が自動的に守られるわけではありません。世界中のどこかで特許侵害の事実がないか、常に見張るのはあくまでも権利者の仕事です。また、侵害された事実がわかった時にうまく動かないと、せっかくの特許が骨抜きにされたりしかねません。また、場合によっては裁判ということになって、それはそれで結構面倒臭いことになります。私も一度だけこの裁判に関わったことがありますが、アメリカまで行って現地の特許弁護士と打ち合わせて... とか、結構なエネルギーでした。

独占的に権利行使出来ないと意味がない

現代の特許は、それ単独で利用されることはあまりありません。十分「強く」て有効な特許の場合、何らかの標準化とか規格化に組み込まれたりすることがありますが、そういった場合は「特許プール」に組み込まれます。それはそれで結構なことではありますが、実務的にそれが嬉しいかどうかは、立ち位置次第です。 

これらのことを件のアイディアについて考えてみると、そもそもの動機も含めて、「この程度」のアイディアを特許化するメリットはあまり見えて来ません。というか、メリットはあると思うのですが、「コスト」が大き過ぎてなかなかに大変だということがわかります。

「貧者の知財戦略」

件のアイディアについて、取ろうと思えば特許は取れるという感触はあったのですが(調査時点では先行例は存在しません)、それを実際にするかどうかは前節の諸々を考えると躊躇してしまいます。投融資関係のハッタリをカマすことが目的であれば、何が何でも取ってしまっておいて、ついでに国際特許も出しておいて... ということは意味があるのかも知れませんが、それ以外の実効性はあまり期待出来ません。

ところが、そもそも我々が特許化したいという動機は、

自分達のアイディアを他社が特許化しない

ということにあるので、どういった手段であれ他社が特許が取れなければそれでいいことになります。

そこで考えたのが「公知化」です。特許は新規性は必要条件であるので、他社が特許を取れなくするためには、新規性を失なわせてしまえばよい、つまり「公知」にしてしまえば良いわけです。「公知である」というのは、特許を取りたい人にとっては、一番のダメージでもあります。一度特許裁判に関わった時も、公知例を示すことで対応しました。

また、「公知にしてしまう」ためには、これと言って費用がかからない上に、

厳密な調査は不要

というお気楽さがあります。公知にするには、いろんなアイディアを公言したり実装したり出版したりしてしまえばそれで良く、それ自体が既存の特許等に抵触しているかどうかはどうでもいいわけです。「特許の侵害」はその特許を使うことにあって、その特許について語ることは問題ありません。他方、既に語られているアイディアは新規性がないということになって新規性が否定されたりします。アンバランスな気もしますが、そういうものなのでしょう。

ということで、前のエントリを書きました。書く前ではそれなりに新規性があったと思いますが、今は公知です。使えそうだなと思ったら相談なしでどんどん使って下さい。もちろん、その関係でお仕事の依頼があれば、よろしくお願いします。

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