ハードウェアからサーバ・アプリまでワンストップで開発

ここは会社のブログなので、あまり主義主張じみたことは書かないつもりなのですが、

前のエントリ

ノーコードのWebサービス連携ツール「n8n」

これ、元々は「オープンソースノーコードの紹介」というつもりで書いてもらってました。

ところが、公開直前になってリポジトリを見ると、

Sustainable Use License

という謎のライセンスに変わってました。

gitの履歴を見ると、あのエントリを書いた後に変更されたようです。

ライセンス変更の面倒さ

オープンソースだったものがいきなりライセンスが変更されるということは、基本的にはそうそう起きません。特にオープンソースライセンス(OSDなライセンス)であったものが、そうでないライセンスに変更されるということは、多くの場合

事実上不可能

と言って良い困難を伴います。

と言うのも、そこそこ流行ったオープンソースには「部外者のコミッタ」が存在していて、それらは「オープンソースだから」ということで、「現在のライセンス」に従って協力しているからです。ですから、同じオープンソースライセンスであっても思想の異なるライセンスに変更する時には、それなりの「協議」が必要となります。ここに歴史というものが加わるとさらに面倒で、「かつてのコミッタと連絡が取れない」ということもあったりして、結構厄介なものです。

企業製のオープンソースはこの面倒を避けるために、「外部からのコントリビュートは参考にするけどそのままマージせずに社内で同等のコードを書く」というようなことをしていたりします。また、Gnuだと「念書」のようなものを書くステップがあった時代もありました。いずれも、「ライセンスを正しく運用する」にはそれなりのエネルギーが必要だということです。

こういったことがあるため、ライセンス変更はあまりされません(*1)。

という背景を持って件のリストは作っていて、当初はmayumiもそのつもりでレビューを書いていたんですね。

ところが、いきなりのライセンス変更です。そして、その変更されたライセンスが

意識高そうで一見素敵な感じ

のするライセンスなんですね。「持続可能」ですって。今流行りのSDGsのアレですね。

「オープンソースモドキライセンス」や「非営利無償」

ライセンスは前述のような問題をクリアできるのであれば原著作権者(オリジネータ)が好きにすればいいと思うのですが、このライセンスはちょっとクセモノです。

ところで何年か前に、「SSPL」というライセンスが産まれました。

細かい経緯や詳細、その問題点等については、ここで書けるような量ではないので省きますが、SSPLはいわゆる「オープンソースモドキライセンス」の一つです。「だいたいオープンソース」なんですが、OSD準拠ではありません(後述します)。

n8nの言う「Sustainable Use License」も同様の「オープンソースモドキライセンス」の一つです。

また、件のリストを作っている時にいろんなノーコードローコードについて調べていたのですが、この中にも結構厄介なライセンスのものがありました。

GitHubに置いてあるし、ぱっと見オープンソースライセンスっぽいのに、なんか余分なことが書いてあるものがあります。オープンソースでなく、「プロプラ有償」が基本のライセンスであっても、「コミュニティライセンス」とか「非営利無償」とかがあって、「企業が仕事で使うんだったらお金下さい、個人や非営利法人は無償です」ってライセンスです。

私(生越)もフリーソフト書きですから、こういったライセンスを設定する人達の気持ちは痛いくらいよくわかります。「タダで作って公開してて自分は金にならないのに、他人はそれで金儲けをする」ということに対する不公平感です。オープンソースやフリーソフトに関わっていると、だいたいこういった不公平感があるものです。そこで「金儲けするんだったら分け前よこせ」ってライセンスにしたくなる。当然と言えば当然のことです。「非営利無償」も同じで、お試しや非営利組織が使う分には「お互い様だもんね」という気持ちで無償で使ってもらってもいい、それは一つの社会還元だと思うわけですが、そこで商売に使うとなると、「原価」として扱って欲しい。これも気持ちはよくわかります。

「オープンソースモドキライセン」や「非営利無償」の厄介さ

SSPLやSUL(と書けばいいのかな?)は、そういった意味では実に合理的なライセンスだと言えます。金儲けに使うんであれば金をくれ。そうでなければ無償でいい。実にまともな考え方です。

とは言え、こういった考え方はOSDとは相容れません。これは、

5. No Discrimination Against Persons or Groups

The license must not discriminate against any person or group of persons.

に抵触するためです。OSDでは、「要するにオープンって言ってるんだからオープンだよ」ということですね。

まぁOSDに準拠するかどうかは一種の教条的なものでもあるので、それ自体はある意味どうでもいいんですが(こっちが抵触しなけりゃいい)、これは実際の運用が厄介という不利益があります。

どういったことかと言えば、こういった「直接的な契約行為なしで契約が成立するもの」の場合、自分がその正当な契約者になれるかどうかがあまりはっきりしないからです。

ライセンスの対応

もうちょっとわかりやすく書くと...

「プロプライエタリで有償なソフトウェア」の場合、そこには直接的な契約が存在していますから、「お金を払った」ということで正当な契約者になれます。ですから、その契約条項に書かれていることを全て同意すれば良いだけです。何も難しいことはありません。そして、そういった「金を払っている」という関係がありますから、「有償サポート」といったものや「情報提供」といったものも期待できるわけです。

「オープンソースなソフトウェア」の場合、契約条項に合意するだけです。その「合意」は自分の意思決定だけです。何も難しいことはありません。OSD準拠のライセンスは原則的に「誰にも」開かれているものなので、一方的に同意すれば良いのです。ライセンサーに金を払っているわけではないので、「全ては自助努力」と言われても納得できますし、ライセンサーがそうであるならサードパーティーのサポートを探すという解決もあります。

ところが、「オープンソースモドキライセンス」の場合、多くはライセンシーがどういった人(法人)であるかを問います。つまり、「その活動がライセンサーが認めた範囲かどうか」という判断が入ります。直接的なそのソフトウェアの扱いでないところでの活動が問われます。

たとえば、「非営利無償」は一見わかりやすいですが、それでは「同人誌の販売」は営利活動でしょうか非営利活動でしょうか? 「宗教法人」での利用は営利活動でしょうか非営利活動でしょうか? 無償サポートをした時に「何かのお駄賃」をもらったらどうでしょうか? 

サードパーティーのサポートはどう判断されるのでしょうか?

つまり、表題で書いたような

「バナナはおやつに入りますか?」

と同じような判断や問答が必要になります。そして、おそらくはそれは一々ライセンサーに聞くことはないでしょう。聞きたければ聞けばいいし、多分答えてはくれると思いますけど、そこまでの卓越性があるのかどうなのか。

同じように、時々ある「学生無償」というのも実は厄介で、

「自動車学校は学生に入りますか?」

という問いは当然にありえるわけです(*2)。何にせよ、「範囲」を決めた場合、その「範囲」の境界線については、なかなかに面倒臭いものを孕んでいるわけです。

実のところ、「オープンソースモドキライセンス」の方には、「要するにクラウドサービスでは応談」という裏の意味があります。もうちょっと正確に言えば、「AWSには使わせないぞ」的な意思があります(歴史的な経緯です)。それであっても、ライセンス条項的にはああいった表現になるわけですし、それは全ユーザが同意しなければなりません。

とか考えると、ビジネスでソフトウェアを扱う場合は、こういった「オープンソースモドキライセンス」や「条件付き無償」というのは避けた方がいいという判断にならざるをえません。

そんなこともあって、件のリストを作る時には、かなり注意してそういったものを排除したつもりだったのですが、まさかリストを作った直後にライセンス変更があるとは思ってませんでした。

オープンソース利用者が儲かってオープンソース作者が貧乏する。この図にはいろいろ釈然としないことがあるのですが、こういった対応は悪手だなと思ってます。

 

*1 実はもっと調べて行くと、元々オープンソースであったローコードノーコードには、結構この手のライセンス変更されたものがあるようです。あるところでオープンソースと紹介されていて実際に調べるとプロプラになっているものとか。元記事が勘違いかと思ったらちゃんとライセンスが書いてある記事でもあるので、変更されたものなのでしょう。この傾向、このような「金の臭いのするソフトウェア」にしばしばあることもわかりました。この辺のことについては、また暇な時にエントリを書きたいと思います。

*2 今はどうだか知りませんが、昔は「学校法人でない専門学校」がしばしばありました。かつて私がちょっとおもりしていたコンピュータ専門学校は学校法人として登録されていませんでした。そのような場合に「学生」という身分はどうなるのか不明です。一応世間には「各種学校」ということになっていたのですが。「自動車学校」もそういった「各種学校」と同じ扱いになります。