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弊社の業務で作るプリント基板は、アナログが問題になる基板や凄いスピードの高速デジタルではありません(いわゆる「マイコン制御の機器」です)。高々数MHzくらいのデジタルの装置です。今時のものですから、高速のクロックや無線を含んでいたりしますが、それらはモジュールの中ですから、こちらの設計の外になります。

それでもアースは「ベタアース」です。これは常識だとも言えるのですが、理由を考えたことがありますか?

そもそも「数MHz」が低速かと言う話はあると思いますが(※1)、いわゆるブレッドボードで作っても問題が起きないような、そんな回路です。まぁ中にはI2Cみたいに1MHzでも高速に思える世界があることは否定しませんけど(※2)。

プリント基板設計の解説を読むと、アース(グランド)は最終的にベタにしてしまうと良いようなことが書いてあります。理由としては、

  • ノイズの影響を受けにくい
  • ノイズ源となりにくい
  • 基板上のクロストークが減る
  • アースが取りやすい
  • 熱の通り道になるので都合が良い

などが挙げられています。

どの理由を採っても、「高々数MHz」の「デジタル装置」の時は、あまり問題になりそうにありません。以下、意味や効果と一緒に説明してみます。

ノイズの影響を受けにくい

回路がアースで囲まれていると、いくらかノイズの影響を受けにくくなります。

とは言え、そういった低速のデジタル回路の場合、論理振幅はそんなに小さくありません(1Vはあります)ので、常識程度のノイズで論理が反転することはまずありません。極端な省電力回路だとインピーダンスが高いので影響を受けることもあるでしょうが、「普通の設計」の場合だとpull upやpull downの抵抗は常識の範囲なので、そこまでは問題になりません。アースがどうこうよりは、インピーダンスを下げることの方が大事です。

また、仮にそういった強力なノイズが出ている回路(弊社の顧客にはあるのですが)であれば、ベタアースくらいでは全く足りないので、何らかの他の対策をする必要があります。大電流回路が近くにあると、普通の静電シールド(銅箔で包む系)だけでは足りなくて磁界のシールドが必要になる場合もあります。

pull upやpull downをサボっていると、人体の誘導で回路がバタバタしてびっくりすることがありますが、それはそもそも誘導を受けるような回路になっていることが問題なわけで、仮にベタアースで救済されたにしても不適当な解決方法です。

ノイズ源となりにくい

電子回路はどのようなものであれノイズ源となります。

ノイズ源となるというのは相手があることなので、「これで大丈夫」ということはありません(規格はありますが、あれはあくまでも最低限を定めてるだけ)。やれることは何でもやるという姿勢は悪くはないでしょう。振幅が数Vある数MHzのデジタル回路は、文字通りのノイズ発生器だと思って良いです。ただ、数MHz以上だと、そのノイズが直接影響を受けて目に見える機器は限られて来ます。これが数100KHzであれば、ラジオのノイズでわかるんですが。まー、何にしろ、対策は必要です。

とは言え「ベタアース」をしたところで、両面基板とか4層基板くらいであれば面方向を見ればノイズ源となる回路はシールドされてないのですから、「しないよりマシ」くらいでしかありません。抜本的な対策をする必要があるなら、6層以上にして外層はシールドにして面方向もアースで挟むとか、回路をシールドケースで囲む必要があります。

クロストークが減る

近接した回路はいろいろな理由で結合があります。それをアースで囲むと、結合を減らすことが出来ます。高インピーダンスのアナログ回路だと、「ガードリング」というパターンを描くこともあります。

アンバランスな回路の場合、アースをうまく取ってないとクロストークが発生しやすく、それで問題が起きることがあります。I2Cは比較的低速ですがアンバランス回路なので、SDAとSCLがクロストークを起こすとか、しばしばあるようです。

とは言え、クロストーク云々もノイズの影響と同じことで、それが問題になる論理振幅ではそもそもないので、一部を除けば低速のデジタル回路の場合はあまり気にする必要はありません。

アースが取りやすい

「ベタアース」はアースですから、ベタのどこでもアースになります。測定器を当たる時とか、どこでもアースがあるのは都合いいですね。「いつものデザインルール」だとどうしても届かないグランドとか、「どうせベタにするしぃ」とか思って手を抜きたくなったり。

別の意味での「取りやすい」で言うと、アースは普通は広い方がインピーダンスが低くなりますから、安定でもあります。問題もありますが、だいたいはアースは太い程いいものです。

アースは電気の帰り道

だと思えば、電源や信号線の全部の電気がそこに流れるわけですから、それに見合った太さが必要です。

アースが取りやすい(作りやすい)のは確かに楽ですが、基本的にはパターンレベルでちゃんとグランドは配線しておくべきです。ベタを使ってアースを取り回そうとか考えるのは、あまり感心しません。測定器でベタアースからアースを取ると、ノイズとかの影響を受けることもあります。

「アースは電気の帰り道」と言っても、実際には極端に細くないパターンであれば、それ程心配するにはおよびません。太い方がいいですけど、後述するように「太い」と「ベタ」はちょっと意味が異なったりします。

熱の通り道になる

プリント基板の絶縁体と比べれば、銅はとても熱が通りやすいものです。なので、そこは熱の通り道となってくれます。放熱だけではなくて、温度補償とかにも使えます。

熱の通り道になってくれるのは都合が良いのですが、それを意識する必要がある(回路の温度補償をする必要があるとか)回路はそうそうありません。放熱になって都合が良かったりすることもありますが、そこまで発熱する回路をどうこうすることはあまりないですし(小電流のレギュレータとかには必要です)、発熱が問題になるような場合はアルミニウム基板を使うとか放熱器をつけるというような、別途放熱を考えた方が良いのが普通です。

デメリット

他方、不用意にベタアースをすると、銅箔がアンテナになってしまったり、インピーダンスの関係で電位が揃わなかったりという問題も起こりえます。思わぬところで共振したり、変なスタブになったり。まぁ、これもアナログや高周波(もう1桁以上高い周波数)の時に起きることではありますが。

この問題があるため、アースはベタにして面積を大きくするよりは厚さ方向に断面積を大きくした方が良いです。まぁ、アースだけ厚い銅を使うというのは普通のプリント基板では出来ませんけど、多層で箔の厚さを変えられるところはあるようです。

何にしろ、太い方がいいアースと言えども、広い平板となるといろいろ都合が悪いことがあったりします。

本当の理由

こうしてみると、世間一般で「ベタアースの意味」と言われるものの多くは、高速だったりアナログ回路だったりすると重要でも、低速デジタル回路にとっては「気休め」というレベルの効果しかないようにも見えます。そういったことを考えると、一般に言われている「ベタアース」は「高々数MHz」の「デジタル装置」では不要なのでしょうか?

実はこれにはここに書かれていない、大きな理由があります。それは、

基板上の銅の量を同じくらいにする

ことです。

これは何のためかと言えば、一番大きいのは

基板の「反り」を減らす

ということです。「え? それアースである必要ないじゃん」という反応もあると思いますが、実際そうです(後述)。EMC的には「気休め」でしかないのですが、この効果は絶大と言っても良いです(基板に依りますが)。

基板に銅がある部分とない部分とでは、環境(気温湿度経年劣化等)によっての伸縮が異なります。その結果が基板の反りになります。銅に覆われている部分の面積を同じくらいにすれば、同じような伸縮になってくれるので、反りが低減出来ます。

それが出来ない片面板の場合はしょうがないです。また、反りの原因は銅の面積のアンバランスだけではないので、これがしてあるからと言って安心というわけでもありません。あくまでも予防の一つに過ぎません(無意味に薄くしないとか、半田量も同じくらいにするとか...)。

とは言え、こういった対策の出来ない片面板が実装のしかたや経年変化で結構反るということを見れば、無駄な努力ではありません。まぁ、KiCADの場合はベタアースを作るのは数クリックで出来ることですし、「気休め」と言っても有害なことは少ないので、「とりあえずやっておく」でも良いとは思いますけど。

信号の関係でベタに出来ない場合は「捨てパターン」でも作っておくと良いです。この場合は下手にベタのままにしておくと、そこが変な回路があるのと等価になってしまうので、その辺は注意が必要です。趣味の基板なら、ドット絵とかにするのも悪くないでしょうね。

まぁ溶かす銅が減るのは、それ自体エコでもあるんですけどね。製造に出しちゃう時は気にしないですけど。

 

※1 ここでは「高々数MHz」という表現を使って低速であるかのように書いていますが、「高々数MHz」は信号の取り回しの手を抜いて良いレベルの低速ではありません。これくらいの周波数であれば、「デジタル信号の波形」というようなことをあまり意識しないで、純粋にデジタルのことだけ考えて設計が出来るという範囲だということです。

※2 I2Cはそもそも遠くまで引き回すことを考えてない規格なので、デジタルを引き回すための工夫はあまりされていません。逆に考えると、高々数MHzと言えども、何の工夫もしないと案外に高速だということでもあります。

参考

捨て基板にどうしてパターンが入っているの?

浮きベタはなぜダメなのですか?

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